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コラム

1枚の写真からはじまった価値の創出

2017年10月31日

伏見稲荷大社の千本鳥居

商売繁盛の神様である伏見稲荷大社が、現在多くの外国人観光客で埋め尽くされている。世界最大の旅行口コミサイト”トリップアドバイザー”が発表する「外国人に人気の日本の観光スポットランキング」で2013年に2位、2014年・2015年には1位に輝いた。世界遺産に未登録な伏見稲荷が、なぜ他の有名な観光地を押さえ頂点を極めたのかには諸説あるが、それはだいたい1枚の写真からはじまったといわれる。欧米の旅行ガイドで京都を代表する写真は、昔から金閣寺と相場は決まっていたが、インターネットの普及で旅行者の投稿や口コミ情報が重要視される中、10数年前ある旅行サイトに投稿された伏見稲荷の千本鳥居がをきっかけとなり、伏見稲荷大社の名は世界中に普及していった。朱色の不思議なゲートの連なりが、さも永遠につづいていくかのような幻想的な世界観をつくりだし、伏見稲荷という神の名も知らない人々の心に、波紋の如く世界中へ響き広がっていったのだ。欧米の稲荷大社熱は、現在中国人やアジアの人々へと移り、東西を問わず、この鳥居を目指す観光客の足は絶えない。

伏見稲荷大社の初穂料

この千本鳥居は、奉納という形で金額によって大きさが変わり、大概が商売繁盛を願う企業家によって献上される。祈願の代償を、鳥居という形で残す古いシステムである。古いものは江戸時代のもの現存し、人が通れない鳥居まで含めると数千は大社内に存在する。伏見稲荷大社のHPから初穂料を転載しておくが、高いものだと10号1,302,000円というのもある。形で残した代償の証は、時には見栄であったりもするが、大半は企業の成長を祈願した経営者の心の叫びであり、それらが時を越えて外国人をも惹き付ける名所となった。

伏見稲荷大社の千本鳥居2

CSR活動や情報開示は、会社にとってメリットが少ないから行わないと考える経営者は結構多い。その結果、CSRに関するレポート等任意な開示書類は、上場企業の三分の一程度しか作っていないといわれる。更に、レポート作成に積極的な企業の中でも、基本は法定開示書類を出していれば、CSRには強制力がないことから、説明責任というよりも慣例の域を出ないスタンスで臨んでいるケースも多々見られる。CSR関連情報は非財務情報といわれる現在において、しかしCSRこそ財務情報のコンテクストだと理解すると、伏見稲荷の姿が輝いて見えてくるようになる。CSR報告は単なる事業活動報告ではなく、ステークホルダーとの価値創出についてのレポートであるべきで、1枚の写真が世界中から大量の観光客を招いた千本鳥居の姿が示唆するものは、ささやかな奉納の積み重ねが、新しい出会いを生む企業のサステナビリティそのものなのである。

CSRとは、底辺に企業の成長性や持続継続性を願う経営サイドの思惑を秘めつつ、社会やステークホルダーとの協調性を高める大きなコミュニティーの出来事ではあるものの、そのイベントそのものが「やさしかったり」「美しかったり」「神秘的であったり」すると、まったく関係のない人々が参加してくることになる。そこに機会が生まれる。彼らは肌の色も、言語も、宗教も違う人々であったりするのではあるが、そこに共鳴できる「価値」さえあれば、金を払ってでも参加してくるものなのだ。彼らの中から日本語を学ぶ人が生まれ、鳥居に刻まれた社名を検索し、その会社の商品を手に取ったとすれば、CSRが目指すべきゴールの姿がそこにあるようと考える。真のCSRは、馴れ合いで成立はしないのだ。幻想的な千本鳥居の連なりが、一朝一夕にはいかないのと同じように。伏見稲荷大社の賑わいを見るにつけ、小さなCSRの輪が、大輪となる姿をふと思い浮かべてしまう。

一筆芳巳

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